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4倍体iPS細胞を用いて細胞の多倍体化を再現する

 私達の体のほとんどの細胞は、23対46本の染色体を持つ2倍体です。1番から22番の常染色体、23番目の性染色体を、それぞれ1本ずつ両親から受け継ぐことで2倍体細胞として存在しています。しかし、心筋細胞や肝細胞など、一部の細胞種では成熟に伴い染色体セット数が増える「染色体倍加」が起きます。成人の心筋細胞の約8割は、23種類の染色体を4本ずつ持つ4倍体心筋細胞です。
 しかし、従来のiPS細胞由来心筋細胞はこの染色体倍加がほとんど起きておらず、未熟で胎児期のような状態であり、医療応用に向けた課題となっていました。
 そこで私達は、2倍体iPS細胞由来心筋細胞の4倍体化を目指すのではなく、iPS細胞そのものを4倍体化させてから心筋細胞に分化させればよいのではないか、と考えました。実際に、細胞融合によりヒト4倍体iPS細胞を樹立することに成功し(図1)、その心筋細胞分化も達成しました。期待した通りに、4倍体iPS細胞由来心筋細胞は、強く速く収縮するなど、より成熟した特徴を示し、iPS細胞由来心筋細胞を用いた医療応用の可能性を広げることができました(図2, Nakajima, Commun Biol 2026)。
 心筋細胞だけでなく、肝細胞や骨格筋細胞、破骨細胞などいくつかの細胞種で、染色体倍加が起きていることが知られています。さらには、通常は2倍体である神経細胞などの染色体倍加は老化や疾患の兆候であるという報告もあります。私達は、こうした細胞で起きる染色体倍加を4倍体iPS細胞を用いて再現し、より成熟した細胞の作製や、老化や疾患モデルとして活用し、疾患の治療法開発につなげることを目指しています。

図1

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図2

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30億塩基あるヒトゲノムDNAの一塩基だけを置換する

 ゲノム編集技術はヒトiPS細胞の遺伝情報の改変を可能にし、疾患モデルの確立や細胞移植治療などへの応用が期待されています。しかし、人工的な配列を残さずに30億塩基からなるヒトゲノムDNAの一塩基だけを置換するのは非常に困難でした。多くの疾患は一塩基置換によって引き起こされるため、この一塩基置換が自在になれば広範な応用が期待できます。
 私達は、CRISPR/Cas9やTALENとデジタルPCR技術を組み合わせて、一塩基置換だけを持つiPS細胞を単離する技術を開発しました(図3, Miyaoka Nature Methods 2014)。
 この手法を用いれば、ゲノムの望んだ箇所に一塩基置換を導入することができます(図4)。

図3

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図4

図5

野生型細胞

変異細胞

cTnT/

 iPS細胞のゲノムを編集すれば、あらゆる細胞種での遺伝性疾患の発症機序を培養皿上で解析できます。例えば心筋症の原因点変異を導入したiPS細胞を心筋細胞へと分化させると、実際に患者で認められるサルコメア(心筋細胞の収縮機能単位である縞状の構造)の形成異常が起きます(図5)。また、心筋症と神経変性疾患に共通する、RNAとタンパク質が凝集する異常による疾患の発症機序も明らかにしました

疾患を培養皿上で再現し、その発症機序を探る

治療に使える正確なゲノム編集条件を探索する

 遺伝性疾患を持つ患者さん由来のiPS細胞は、その原因となる変異を保持していますが、この変異を修正することができれば、移植治療に使える可能性があります。そのためには、ゲノムに不必要な傷をつけない正確なゲノム編集が必要です。私達は、遺伝性肝疾患であるウィルソン病の原因となる変異などを、iPS細胞において様々なゲノム編集条件によって修正し、高感度なデジタルPCRなどを駆使してその正確性を評価していきます。

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